大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)11号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 審決の理由の要点2に摘示された引用例の記載に関する事実、同3に摘示された本願発明と引用例との一致点及び相違点は当事者間に争いがない。

三 本願発明が引用例に示されている半田付抵抗層の通常の厚さ(一〇ないし一五ミクロン)を二層にして、全体の厚さを二倍にすることによつて半田ブリツジの発生を防止する技術に関するものであることは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いがない甲第二、第四号証によれば、一個について一二箇所の〇・五ミリメートルのランド間隔のある一〇〇個の半導体集積回路(プリント配線板)(ランド間隔合計一二〇〇箇所)について、半田抵抗層を用いない場合、厚さ一〇ないし一五ミクロンの半田付抵抗層を一層のみ用いる場合(引用例)、これを二層用いる場合(本願発明)にわけて半田ブリツジの発生を実験した結果、それぞれ五八七箇所、三八箇所、二箇所の半田ブリツジの発生がみられ、本願発明による方法が他の二つの方法に比し格段の効果を奏したこと、右の効果は、本願発明が半田付抵抗層を二層として全体の厚さを二倍にしたことに起因するものであることが認められる。

四 原告は、本願発明の前記のような技術思想は引用例には示唆されていない旨主張するので、以下この点について検討する。

1 当事者間に争いのない引用例の記載内容及び成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例には、(イ)「導体間の間隔は、あまり狭いと、はんだのブリツジを生じやすい。これを避けるためには一六分の一インチ(一・六ミリメートル)とされている。電圧は一五〇ボルトならば、最低三二分の一インチ(〇・八ミリメートル)の間隔でも許容される。もしどうしても導体間隔を狭くしなければならない場合には、後述のソルダレジストを用いるとか、電気的問題があるならば樹脂を塗布するなどのことも考えられる。」(一二六頁二行ないし五行)、(ロ)「機械が小型になり部品の実装密度が高くなるに従つて、導体間の間隔を電気特性の許す限り小さくしようとする傾向がある。しかし、これを小さくすると、はんだ付作業において導体間にはんだのブリツジを生じやすくなる。これを少なくするためには、設計者が次のことを充分に知つて、これを設計の上に反映しなければならない。すなわち、基板のはんだ付けにおいて、はんだ浸しのはんだの流れが基板の導体面をどう流れるかというと、これははんだの流れと導体回路が平行になればブリツジは少なくなるということである。……またブリツジを防ぐ方法として、ソルダーレレジストを利用することもよい方法である。」(一四九頁一〇行ないし二五行)、(ハ)「(2)ハンダレジスト 基板銅箔回路のはんだ付けする箇所だけを残し、その他の部分を耐熱性のある有機の一液または二液性の樹脂膜で覆い、これをキユアーしておき、はんだが付かないように使われるのがハンダレジストである。これにより銅箔回路が接近しているとき、はんだ浸しによつて生ずるはんだブリツジおよび回路終端部にできるはんだのツララを防止することができる。」(一五一頁四行ないし九行)との記載があることが認められる。

2 ところで、当事者間に争いのない請求の原因四、2、(二)の事実によれば、半田ブリツジの発生の原因は次のとおりである。すなわち、半田付抵抗層を使用しない配線板(基板)を半田槽から引上げた場合、各ランド間隔の小さい配線板では、別紙図面(一)に示す隣り合うランド間の半田の結合力Fが相互に引張り合う表面張力P及び重力Gに勝り、半田は配線板に付着したままか、或は曲面状をなして隣接するランド間を橋絡してブリツジ状を形成する。これに対し、各ランド間の間隔の大きい配線板では、右の結合力Fが表面張力P及び重力Gに劣り、隣り合うランド間の半田の橋絡は切断され、ブリツジを形成しない。

3 そこで、右の半田ブリツジ発生の原因に基づき、前記1に認定した引用例の記載が開示する技術的内容を検討する。引用例に、半田付抵抗層により各ランドの半田付けされる面積が一定の大きさに制限されるため半田ブリツジの発生を防止することができることが開示されていることは当事者間に争いがない。そして、引用例の記載のうち、「導体間の間隙があまり狭いと半田ブリツジが生じやすい。」との部分は、前記2の半田ブリツジ発生の原因そのものを開示するものであり、「半田付抵抗層を用いると半田ブリツジの発生が防止される。」との部分は半田が半田付抵抗層により配線板に付着しないため、結合力Fを弱め表面張力P及び重力Gを強める結果半田ブリツジの発生が防止されることを示すものであり、また、「基板銅箔回路の半田付けする部分だけを残して半田付抵抗層で覆う」との部分はランド中必要な部分(別紙図面(一)でいえば、ランド4のうちリード端子7が挿入される取付孔9付近)だけを除いて残余のランド部分及び配線板を半田付抵抗層で覆うことにより、ランド中半田付けされる部分相互の間隔をなるべく大きくして半田ブリツジの発生を防止することを示しているものということができる。

このように、引用例は半田付抵抗層を用いる半田ブリツジ発生防止について、専ら半田付けするランド相互間において半田の付着しない間隔を確保することの有効性を開示しているものと認められるものの、その厚さを増大させることにより半田ブリツジ発生を防止する技術思想を示唆する記載は全く見出すことはできない。

4 審決は、引用例記載の半田付抵抗層により半田ブリツジの発生が防止される理由につき、半田付抵抗層の厚みの存在により、隣り合つたランド間の板表面に沿つて連絡する線の長さが半田付抵抗層を形成しない場合より長くなるという原理によることはその構造上明らかであると認定する。しかし、前記のように引用例は半田付抵抗層によつて半田付けされる部分の面積を制限し、半田付けするランド相互間において半田の付着しない間隔を確保する技術思想を開示しているところ、前掲甲第三号証によれば、引用例は通常の厚さの半田付抵抗層を想定していると解せられるのみで、具体的な厚さに関しては全く記載していないこと、右の通常の厚さである一〇ないし一五ミクロンの層をランド間の距離に加算するとしてもその増加はきわめて微少なものにとどまることに照らせば、引用例がブリツジ発生の原因として示しているランド間の間隔とは、直線距離を意味するもので、半田付抵抗層の厚さを顧慮しているものと認めることはできない。

したがつて、前記の原理が半田ブリツジ発生防止の原理として成り立ち得るか否かはともかくとして、かかる原理が引用例に開示されているとする審決の認定は誤りであるといわねばならない。

5 一方、原告は、半田付抵抗層を二層とした場合半田ブリツジ発生が防止される理由として半田付抵抗層の厚さを増大させることによりその端縁部における半田とランドとの接触角θが減少するからである旨主張し(請求の原因四、2、(二))、被告もこれを争つていないところ(被告は、本願明細書には右半田ブリツジの発生が防止される理由が記載されていない旨主張するが、明細書には発明の目的、構成、効果を記載すれば足り、構成から効果が生ずる理由は必ずしも記載する必要がないから、被告の右主張は意味がない。)、甲第三号証によるも右の点が引用例に開示されていると認めることはできない。

6 そうであれば、半田付抵抗層の厚さを増大させることによつて半田ブリツジの発生を防止するという本願発明の技術思想が引用例に示唆されていると認めることはできない。

四 以上述べたところによれば、本願発明が引用例の記載から容易に推考し得るとし、その効果が当然に予測される範囲のものであるとした審決の判断は誤りであるといわなければならないから、原告主張の取消事由(1)及び(2)は理由があり、審決は取消を免れない。

よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

絶縁基板に導電体パターンを印刷し、この導電体パターンの形成面に半田付けするランドを残して全面に第一層の半田付抵抗層を形成し、かつ、ランド間隔の狭い部分に半田の橋絡を防止する橋絡防止用の半田付抵抗層を上記第一層の半田付抵抗層上に形成したことを特徴とするプリント配線板。

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